大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

釧路地方裁判所 昭和52年(ワ)16号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

第二予備的請求について

一原告が、訴外会社に対し、原告主張のとおり債権を有していることは前記第一の一で認定したとおりである。

二また、訴外会社が、昭和五一年一〇月二五日、被告会社から六〇〇万円の融資を受けるに際し、被告会社との間で既存債務と合わせて合計一〇九二万四七九一円の債務を同月末日から昭和五二年三月末日までの間に六回に分割して弁済するものとし、右支払を怠つたときは訴外会社所有の全在庫商品及び全車両を引き渡し、これを被告会社において任意に処分しても異議を申し述べず、右支払が不可能と判断したときは支払期日の三日前に連絡する旨の契約を締結し、右契約に基づいて被告会社は同年一一月二五日までの間に四、五回に亘つて訴外会社から本件各物件を含む商品の引渡(所有権の移転)を受け、最終引渡日の翌日である同年一一月二六日、訴外会社の代表取締役である訴外五十嵐は所在をくらまし、訴外会社が倒産したことは前記第一の二で認定したとおりであり、右事実および弁論の全趣旨によれば、右引渡(所有権の移転)によつて原告の訴外会社に対する債権は回収不能となつたものと認められる。

しかし、被告篠原が、個人として、訴外会社から、本件各物件の引渡(所有権の移転)を受けたことを認めるに足る証拠はない。

ところで、被告らは訴外会社との間の右契約は譲渡担保であると主張し、原告も右主張に対応して被告らと訴外会社間の譲渡担保契約に基づく本件各物件の所有権移転行為の取消、及びその返還(またはその代償)を求めている。しかし、右契約は被告会社の訴外会社に対する債権の確保のためになされたものであることは、その契約内容自体から明らかであるが、占有改定により引き渡しずみである旨の文書を作成して後日に備える等訴外会社の占有に委ねたままで所有権移転の対抗要件を具備させることに意をはらつたような形跡は、本件全証拠によつてもこれを認めることができず、むしろ、双方とも他の債権者に先駆けて現実の引渡を完了させることに意を用いていたようにも窺えるので、右契約を被告主張のように担保物たる商品の販売権を認める一方、将来仕入れられる商品もその都度当然に担保目的物に加えられ、かつ、占有改定による引渡がなされるところの全商品の包括的な譲渡担保契約であると断定するのにはちゆうちよを感ぜざるを得ないが、原告が取消を求めているのは、結局のところ訴外会社と被告会社間でなされた右契約に基づく本件各物件の所有権移転行為の取消とその返還に外ならないと解されるから、右契約が譲渡担保契約と評価されようと、あるいは、包括的な代物弁済の予約などの譲渡担保以外の契約と評価されようと、いずれにしても右契約時に訴外会社に詐害意思があり、被告会社の善意が立証されなければ、右契約に基づく所有権の移転行為は詐害行為として取消を免れないことになる。

三よつて、訴外会社の詐害意思の有無について判断する。

<証拠>によれば、訴外会社は、昭和五〇年ころには年商五、六〇〇〇万円の売上げ実績があつたものの、昭和五一年九月ころまでに、次第に営業状態が悪化し、取引先への買掛金の支払にも窮するようになつたこと、同年一一月二六日当時において、訴外会社の資産は、店舗等にある在庫商品約三〇〇万円程度(同年九月の決算期で、五、六〇〇万円程度)と車両四台のほか、売掛金約二〇〇万円を有するのみで、他方、負債としては、原告以外の卸売問屋三社に対する買掛金が合計約五〇〇万円、被告会社及び金融機関以外からの借受金が合計約五〇〇万円、金融機関からの借受金が合計約八〇〇万円あり、原告と被告会社に対する分を除いても負債額は約一八〇〇万円にも達しており、同年一〇月二五日の時点でもほぼ同額の負債を有していたこと、なお、訴外会社の代表取締役である訴外五十嵐は、個人として宅地、建物の不動産を所有していたものの、そのいずれについても訴外五十嵐個人の債務及び訴外会社の前記債務のために抵当権が設定されていたので、訴外五十嵐が訴外会社の債務を個人保証していたとしてもこれらの不動産は訴外会社の一般債権者の責任財産となる余地は存しなかつたこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

右認定事実に前記認定の訴外会社の原告及び被告会社に対する負債額を併せ考えると、訴外会社は昭和五一年一〇月二五日当時、大幅な債務超過の状態にあつたことが明らかであり、かかる時期に特定の債権者である被告会社(その代表取締役は訴外会社代表取締役である訴外五十嵐の縁籍関係にある。)に対し、被告会社からつなぎの営業資金として六〇〇万円の融資を得るために右債務の弁済確保の方策を講ずる必要があつたとしても、既存債務約五〇〇万円と合わせて約一一〇〇万円にも達する債務(その一部は前認定のように訴外五十嵐個人の土地家屋の取得費に流用された可能性もないではないが)につき、これまでも短期の支払期日を約束しながら一度も期日に支払うことができなかつたのに、第一回の分割金四〇〇万円の支払期日をわずか六日後に定め、その支払を怠つたときは唯一の有形資産である在庫全商品を引き渡す旨約束し、右第一回の分割金の支払ができなかつたことから、以後三、四回に亘つて被告会社に在庫商品の相当部分を引き渡し、さらに、第二回の分割金の支払のために振り出した手形の決済資金が調達できず、倒産が避けられないと判明した同年一一月二五日に残存在庫商品全部を引き渡してこれらの商品の所有権を被告会社に移転した行為は、特段の事情の存しない限り原告ら債権者を害する行為であり、訴外会社の代表取締役である訴外五十嵐もこれを知つていたと推認せざるを得ず、右推認を妨げるような事情は見当らない。

四そこで、次に被告会社の善意の抗弁について判断するに、<証拠>中には、訴外五十嵐が、当時、自宅を建築中であると聞いていたし、また、同人の説明を受け、被告会社の融資によつて訴外会社が順調に営業を継続していると思つていた旨の主張に沿う供述がある。しかしながら、被告会社代表者である被告篠原が融資当初の昭和五一年九月ころはともかくとして、前記契約を締結した同年一〇月二五日の時点において、新たに債権確保の措置を講じさせることにしたとはいつても、従前の融資分約五〇〇万円については、前認定のとおり何度も返済期限を徒過して結局何らの返済をも受けていないのに、さらに、六〇〇万円もの多額の追加融資を行つているのであるから、融資先である訴外会社の資産状態を全く把握していなかつたとは到底考えられないところであり、かえつて、右のように何度も返済期限を徒過している訴外会社に、かりに訴外五十嵐から申し出があつたとしても第一回分割金四〇〇万円の支払期日をわずか六日後に定め、訴外会社が右期限を徒過するや、同年九月の決算で五〇〇万円ないし六〇〇万円程度の在庫商品しか有しなかつた訴外会社から卸売価格で四〇〇万円を下らない商品を引き揚げて債権の回収を図り、さらに、資金繰りに行き詰つた訴外五十嵐から訴外会社の店舗の鍵を交付されるや、夜間であるにもかかわらず、直ちに、同店舗内の全商品を搬出するの挙に出ており、これは他の債権者の存在を予想してこれに先駆けて独占的に債権の回収をしようとしたものに外ならないものであり、また、<証拠>中には、訴外会社の店舗は他から借りているものであり、訴外五十嵐所有の不動産は金融機関等に抵当権が設定されていて担保余力はないと聞いていたとの供述があり、右供述からすると、被告会社代表者である被告篠原は訴外会社において担保価値のあるものは在庫商品のみであることを知つて前記契約を締結したものと推認することができ、以上の事実はむしろ被告会社の悪意を窺わせる事情であるということができるものであることからすると、被告会社の主張に沿う前記供述はにわかに措信することができず、他に被告会社の善意を認めるに足る証拠は存しない。

してみると、訴外会社及び被告会社間の前記契約に基づく昭和五一年一〇月二五日から同年一一月二五日までの商品所有権移転行為のうち、本件各物件に関する部分は民法四二四条により取消を免れないものというべきである。

(笠井昇 稲田龍樹 竹田隆)

物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!